特集 蛔蟲
蛔蟲性イレウスの成因及び治療にたいする批判
大井 實
1
,
別府 道德
1
,
金森 盛起
1
1熊本醫科大學勝屋外科教室
pp.49-55
発行日 1948年2月20日
Published Date 1948/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407200286
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緒言
本邦に蛔蟲寄生がすこぶる濃厚であることは周知の事實である。また蛔蟲によりイレウスが起ることも周知である。それなのにいわゆる蛔蟲性イレウスなるものに遭遇することのきわめてまれであることはひとしく醫家,ことに外科醫のはなはだ不思議に思うことである。蔡氏によれば1940年(昭和15年)までに本邦において報告された蛔蟲性イレウスはわずかに100餘例にすぎないとのことである。主として農村患者を對象としていこる熊本醫大において,著者らはまだ蛔蟲性イレウスを經驗したことがない。また第1表に示す如く諸家のイレウス統計でも蛔蟲性イレウスはきはめてその頻度が低い。
以上のことから,われわれは蛔蟲によるイレウスは非常に起りにくいものであるとの推定を下さざるを得ない。著者らは次に最近經驗したきわめて興味ある症例を報告し,この推定を肯定せんとするものである。蛔蟲性イレウスの報告は上述の如く紙上に散見するが,その大部分はまれなる症例の報告という程度にすぎない。歐米先進國の近年の文獻には,かゝるまれなる症例の報告さへもきわめてまれであり,蛔蟲寄生の少ない國においては當然のことであろう。日本は蛔蟲性イレウスの文獻に富む方である。しかし洋の東西を問はず著者らの如く蛔蟲によつてもイレウスが起らなかつたという症例をあげて,この問題を裏面から論じている學者は近年はほとんど見當らない。著者らは蛔蟲性イレウスなるものが今まで考えられていたよりもさらにまれなものであることを論じ,ひいてその治療方針にまで言及せんとするものである。否定的な所説であるから廣く讀者諸賢の御批判をお願いする次第である。
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