--------------------
移動盲腸に就いて
中谷 隼男
1
,
宮原 信興
1東京遞信病院外科
pp.16-21
発行日 1947年4月25日
Published Date 1947/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407200198
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
I. 緒言
後に述べるごとく移動盲腸症は一定の解剖學的所見を必要とするのであるが,臨牀的には通常右下腹部に起る間歇的疼痛及び便通の異常を主訴として發熱,腹壁緊張或は白血球増加等はなく而も慢性蟲垂炎と考ふ可き根據なきものを移動盲腸症としてゐる。然し臨牀上所謂慢性蟲垂炎として一般に取扱はれて居るものの中には移動盲腸症とす可き若干のものが有るかと想像される。又蟲垂炎として開腹したが開腹前の臨牀症状より豫期せる程度の炎症々状を蟲垂に認めないが蟲垂切除後依然として障碍の消失せぬものの或ものは移動盲腸症であらう。移動盲腸症の定型的な場合は他覺的に右腸骨窩に空氣枕樣の腫瘤(風腫),グル音を觸知し,輕度の壓痛を證し且つ所謂鳥潟氏の唱ふるRosenstein逆症状があつてX檢査に於て盲腸部の下垂,擴張と著明な移動性を證明する。
然し移動盲腸症は廣い觀點から詳細に觀察するときは單に盲腸部のみの異常による局所疾患としてのみ考ふるよりも寧ろ内臓下垂症の部分的一症状として取扱ふ方が妥當であると思はれる。かゝる見地から移動盲腸症を觀察或は處置し其の效果の檢討を試みるのが吾々の目的である。即ち盲腸に加へた簡單な手術が局所の障碍に對しては勿論内臓下垂症の障碍殊に胃下垂の症状或は便通の異常に對する影響の考察を行つたものである。
Copyright © 1947, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.