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去る10月の半ば米國ボストン市のMassachus—etts General Hospitalで2000人からの醫學者が集つてエーテルが麻醉藥として初めて世に生てから百年になるのを記念祝賀した。即ち1846年10月16日に年の若い一齒科醫のモルトン氏(Will—iam. T. G. Mo ton)が,この病院で初めて外科手術の際にエーテルが麻醉藥として有效であることを一般に供覽した。その時から今年は丁度百週年に當るのである。その記念の祝典は3日間に亙つて擧行された。當日ハーバードー大學醫學部の麻醉學の教授のHenry K. Beecher博士はこの會を代表して「手術の際の無痛法即ち麻醉法の發見は恐らく人類にとつて最大の又最も獨創的な發見であつた……若しも一撃にして人類世界の苦難を拭ひ去られた云ふ事實があつたならば臨床的に麻醉法の行はれたと云ふ事實よりも大なるものはないであらう」と云つてる。尚同博士はヱーテル麻醉に關聯してその種々の使用法に就て述べてるが,エーテル痲醉の缺點として麻醉後の劇しい嘔氣,エーテル,マスク使用の不便,時に肺炎を起す樣な肺に對する刺戟性などが擧げられるに不拘今日に於ても依然として,最も簡單な唯一の痲醉藥とされて,たとひサイクロプロベイン,アベルチン,エビパンナトリウム,ペントソールナトリウム,脊髓麻醉,ノボカイン,クラーレ等の新しい麻醉藥が續々出て來てエーテルに對抗してもエーテルの優秀性は今日に至る迄百年間もその價値を保つて居るのである。」と云ひ更にエーテル痲醉法の發達,變遷,其他の麻醉法等に就て述べてる。
因にエーテルの麻醉藥としてモルトン齒科醫に依つて發見され,使用された常時の布樣を當時のBoston Evening Journal紙の記者,AlbertTenney氏が1846年10月17日の紙上に報道してゐるのを拾つて見ると「昨朝,齒科醫モルトン,ドクトルは……病院に來て,頸部より腫瘤を摘出する手術を受けんとする患者を眠らす爲めに特別の藥を與へた……患者は少しも苦痛ある症状を示めさなかつた……患者は何事が起つたか全然知らなかつた様であつた」と報道して居る。なほ當時の模様は有名な畫としてモルトンや手術者ワラン竝に立會つた56名の醫者達を描いて居るが,その他の記録としてこの26歳の青年齒科醫モルトン氏が,マサチユーセツのヂエネラルボスビタルで患者の口に無色の芳香性の液體,當時それが何んである’か知らない液體の入つた瓶に附屬した管を患者の口に入れて,患者に深く規則正しく呼吸する樣に命した,そして患者は眠つた,そこで直ちにフロツコートを着てしかつめらしく手術する外科醫John C. Warren氏が頸から腫瘤を摘出した。手術を見物して居つた人々即その大部分はハーバード大學の醫學生であつたが患者が手術臺の上で手術中に轉々反側したり呻吟したり爲ないので非常に驚いた。又手術者であるこの容易に物に動じないワラン氏も非常に驚いて。見物の人々に向つて「諸君,これは決してゴマカシではありません」と云はざるを得なかつたそうである。
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