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全摘の立場から
全摘を選ぶメリットとしては,①多発する病巣をすべて取り除けること,②術後放射性ヨードによる残存甲状腺および微小な病変をablationできること,③術後Tgを利用したsurveillanceが行えること,そして何よりも④全摘により再発が減り生存率が向上すること,が挙げられる.また,亜全摘以下の手術を行った場合,のちに残存甲状腺組織に結節ができてくることが意外と多い.
デメリットとしては,甲状腺の全摘に伴う①甲状腺機能低下,②副甲状腺機能低下,③反回神経麻痺といった合併症が増加すること,が挙げられる.①については避けられないが,葉切除を行った場合でも約1/4は甲状腺ホルモン剤の補充が必要である.②③を避けるには,成書にある反回神経走行や副甲状腺の存在部位と同定法をよく理解し,なるべく丁寧な手術を心がける以外に方法はない.また,このような合併症は進行癌で起こる可能性が高く,非進行例では頻度は低いとされている.
亜全摘以下の立場から
亜全摘以下を選ぶメリットとしては,①術後甲状腺機能の維持,②術後合併症としての反回神経麻痺および③副甲状腺機能低下症の発生率の減少が挙げられる.デメリットとしては,①残存甲状腺からの再発の可能性,②術後の放射性ヨウ素による検査・治療が行えない,③術後のサイログロブリンが腫瘍マーカーとして有用でなくなる,という点であろう.
デメリットに対する考え方として,①については,残存甲状腺内の小病変は術前の詳細な超音波検査にて診断可能であり,見落とされるような潜在小病変は臨床的に意義がないと考える.②③については重要なポイントとなるが,甲状腺全摘が生命予後を改善するというエビデンスは確立されていない.むしろ低危険群では甲状腺全摘は予後改善に影響しないというのが定説である.ゆえにリスクの評価をきちんと行い,無用な全摘は避けるべきであると考える.
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