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野口昌邦教授(金沢医科大学教授・乳腺内分泌外科)翻訳による『乳腺外科手術アトラス』が出版された.原書はProfessor V. Suzanne Klimberg編集の“Atlas of Breast Surgical Techniques”で,第Ⅰ部「摘出生検と乳房部分切除術」,第Ⅱ部「リンパ節生検」,第Ⅲ部「乳房切除術」,第Ⅳ部「乳房再建術」,第Ⅴ部「拡大切除」,第Ⅵ部「放射線照射のための外科手技」まで,全25章で構成されている.急速に進歩する乳腺外科領域において,世界の第一線で活躍する乳腺外科医が担当執筆し,各手技をビジュアルにわかりやすく解説している.それぞれの章は,ステップ1「外科的解剖」,ステップ2「術前に考慮すること」,ステップ3「手術手技」,ステップ4「術後の処置」,ステップ5「要点とピットフォール」および「参考文献」からなり,画像とイラスト,実写真と解説が添えられている.例えば,第9章の「凍結補助下の腫瘍摘出術」の項では,解剖をイラストで超音波横断画像とともに示し,エコーによる良悪性の鑑別所見も記載してある.注意すべき点として,凍結による変性の影響を考慮して術前組織生検が必要なことが述べられ,また手技では,凍結プローブの穿刺方法を写真とイラスト,超音波画像で示し,アイスボールの形成や生理食塩液の注入方法も解説している.「凍結プローブ針をテコとして用い,腫瘤をロリポップ(棒付きキャンデー)のように切除する」など実際の手技を見るがごとくイメージしやすい表現で学ぶことができ,ステップ5の「要点とピットフォール」も術前,術中,術後に分けて簡潔明瞭に記されている.
編者のProfessor Klimbergも序文で述べられているように,手術はどこで学んだかよりも,誰から学んだかが重要である.外科手技はアートであり,外科医の知識,判断と技術が一体となり,各操作を正確に行うことによってはじめて患者の福音となる手術が完成する.それゆえ,初学者は時間をかけて正確な手技を学ばなければならない.浮腫を予防するaxillary reverse mappingのほか,乳房縮小術,乳房切除術などのoncoplastic surgeryなどは日本からも大きく影響を受けていると編者は述べているが,誠に残念なことに,各章で引用された論文に日本発のものは極めて少ない.世界に通用する普遍性が求められている手術手技においても,乳癌先進国である欧米をはるか後方から追随しているのが現状であるにもかかわらず,“オレ流”が日本の学会では声高に論じられている.野口教授の懸念される“ガラパゴス化”を避けるためにも,日本のレジデントは本書で普遍的かつスタンダードな手技を学ぶ必要がある.
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