胃癌手術のロジック―発生・解剖・そして郭清・9
総論のまとめ:原則の遵守と妥協
篠原 尚
1
,
春田 周宇介
1
1虎の門病院消化器外科
pp.822-831
発行日 2013年7月20日
Published Date 2013/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407104648
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64 手術が終わって標本整理.今日の患者さんも内臓脂肪が多くて大変だったなあ.トレイに入った検体を見ると,胃と一緒にとってきた大網の厚みも半端じゃない.まずは4dから.どうせリンパ節は胃大網動脈沿いにしかないんだから,血管から少し離れたところで切り落としてしまおう.「ホイッ,これ廃棄するやつ」,てな具合で摘出された瞬間からぞんざいに扱われる大網.そんな大網の切除を右胃大網動静脈に近いところだけにとどめ,残りはお腹の中に残してこようという腹腔鏡下手術でよく行われるオプションが上図である.
「これでも確かに4d,4sbは確かにとれるでしょう.でも左右の胃大網動脈を根部で切るので,温存した[大網]がネクってしまうんじゃないですか?」とご心配の向きもあるだろう.でも大丈夫! 何故なら(多少,心許ないが)隠し玉の後大網動脈が残っているから.ということはこのオプションのミソは膵下縁で[横行結腸間膜前葉]に切り込まないこと.胃膵ヒダからbelow Toldtに入って“郭清範囲(11p, or +11d)に応じた腸間膜化”を行い,[網囊後壁]を胎生期から甦らせる.そして例のごとくinner dissectable layerに入って11番を郭清したあと脾門の手前で切り上がる(④).脾摘をしないので,いわゆる膵脾脱転は行わない.脾門部の“すだれ郭清”という逃げ道はあるが,通常は原則D2マイナス10番郭清のための必要最小限の胃間膜切除である.
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