胃癌手術のロジック─発生・解剖・そして郭清・2
腸間膜の剝離可能層
篠原 尚
1
,
春田 周宇介
1
1虎の門病院消化器外科
pp.1542-1551
発行日 2012年12月20日
Published Date 2012/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407104391
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9 今回は腸間膜の微細解剖を追求しながら,剝離可能層とその意義について考える.まず,図8(第1回連載)で作成した胎生5週の基本図から背側胃間膜の部分だけを切り出して拡大してみよう.腸管は,大動脈から衝立状に立ち上がった腹膜の折り返しによって腹壁につなぎ止められている.図5(第1回連載)で決めた地図記号を使って太線で描かれた腹膜は,中皮細胞の単層扁平上皮からなる正真正銘の“膜”である.腸間膜の主体は中間層intermediate layer1)であり,腸管に通じる血管や神経,リンパ管の双方向性の通り道となっている.中間層には脂肪がついてくるが,その厚みは生後,成長につれて増加し,個体差も大きいため時として外科医を悩ませる.いわゆる内臓脂肪というやつである.
腹膜と脂肪層の間には疎性結合組織からなるわずかな隙間があり,層分離が可能である.その剝離操作の結果として脂肪表層に付着するdenseな結合組織が細い線で表記された腹膜下筋膜で,「膜」という名前は付いているが,図5“筋膜論”で述べたように正規の,つまり細胞成分をもった膜ではない.腸間膜から腹壁への移行に伴い,腹膜を後腹膜,腹膜下筋膜を後腹膜下筋膜と呼ぶこともあるが,言うまでもなく連続した構造物であり,わざわざ特別扱いする必要もないだろう.
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