1200字通信・44
ブラックジョーク
板野 聡
1
1寺田病院外科
pp.1288
発行日 2012年10月20日
Published Date 2012/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407104258
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- 文献概要
久しぶりにゆっくりと本屋さんに行く機会があり,面白い本に出会いました.なぜなら,今の日本を見ていて,こうしたことが起こりうるのではないかという思いがなくはなかったからでした.それは,「七十歳死亡法案,可決」(垣谷美雨,幻冬舎)という本です.「うっそ~,きっついブラックジョークやな」と思いつつも,買ってしまいました.
時は2020年.その2年後から日本国民は70歳になると死ななければならず,国が安楽死用の薬を用意するというお話です.もっとも,この題名だけを見ると,なんと乱暴な,と御自分の年齢を考えて不愉快になる方も出てくるのではないでしょうか.実のところ,私も「あと12年か」と思いました.しかし,その題名に釣られて読んでみると,意外や意外,十数年間にわたって義母の介護を一人で行っている主婦を中心に,家庭を顧みない勝手な夫(身につまされます)や引きこもりの息子,家を出て非正規社員で頑張る娘など,今,われわれの周りで起こっている医療や介護,さらには若者の就職難といった様々な現実が取り上げられており,意外な展開に引き込まれていきます.また,現実の国会が声高に言うだけで何もできない体たらくなのに対し,この本の中では気持ちのよいほどに決断,実行されており,その1つがこの法案という皮肉です.義母が幼かったころの第二次大戦後の情景も描かれており,2011年の3.11にも通じる場面もあって,「今」の日本が抱える問題が凝集されて話が展開していきます.筋書きを語る野暮は止めておきますが,納得できる結末に,少し強烈すぎる題名とは裏腹に,爽やかな読後感が残る本でした.
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