外科学温故知新・32
甲状腺外科
黒木 祥司
1
Syoji KUROKI
1
1黒木クリニック
pp.237-242
発行日 2008年2月20日
Published Date 2008/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407102036
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1 はじめに
中国では甲状腺の機能の何たるかもまったく知られていなかった7世紀に,すでに甲状腺腫を甲状腺末で治療していたということであるが,漢方の慧眼には驚くほかない.「東方見聞録」を著したヴェニスのマルコポーロは1270年に中央アジアで甲状腺腫を見たことを記述している.このように古くから知られていた甲状腺腫であるが,科学的に記載されるのには19世紀まで待たねばならなかった.
意外に思うかも知れないが,甲状腺疾患患者の数は単一臓器の疾患としては世界で最大であり,その大部分はヨード欠乏による甲状腺機能低下症である.わが国は,国民が海草類を好んで摂取するがゆえにヨードを自然に補い,ヨード欠乏症の存在しない例外的な存在である.海外ではヨード摂取量が十分ではなく,なかでもイラン,中国,チリなどでは食事性のヨード摂取量がきわめて少ないため,甲状腺ホルモンが合成できず,甲状腺機能低下症となっている例が著しく多い.
のちに述べるように,欧米の文明諸国では20世紀中頃から食塩にヨードが添加されるようになって,ヨード不足による甲状腺疾患は激減した.しかしながら,ヨードを正確に供給してヨード欠乏症を克服したイギリスにおいても人口の15%は何らかの甲状腺疾患を持つと報告されている.また,長崎における調査では一般健康成人の17%に甲状腺疾患があったとされている.すなわち,人類の6~7人に1人は甲状腺に何らかの異常を持っているようである.
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