昨日の患者
ほろ苦い思い出
中川 国利
1
1仙台赤十字病院外科
pp.80
発行日 2008年1月20日
Published Date 2008/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407102007
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- 文献概要
大学を卒業して,早いもので31年が過ぎた.外科医として日々の診療を行っているが,今振り返ってみても冷や汗が出ることがいくらでもある.それは権威ある臨床医として活躍している医師でも必ずあることであり,すべての医師はそれらの積み重ねで診療を行っていると言っても過言ではない.
20年以上前のことであるが,50歳代後半のYさんが嚥下障害で入院してきた.精査を行うと進行食道癌であり,大動脈周囲のリンパ節にも転移を認めた.そこで根治手術は不可能と判断し,内視鏡的に食道内にチューブを挿入することにした.当時は食道癌に対する放射線化学療法はいまだ確立されてなく,嚥下困難な例では経鼻胃管留置か開腹下胃瘻造設術しかなかった.姑息的な治療とは言え,チューブ留置は嚥下障害を除去し,経口摂取を可能とする当時としては画期的な治療法であった.
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