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I.はじめに
生体を構成する細胞は発生の過程で,ある決まった時期に特定の遺伝子を発現し,様々な体細胞へと分化していく。その過程には,種々のproto-oncogenes(原型がん遺伝子)と呼ばれる分化誘導あるいは増殖刺激活性をもっ遺伝子群が,複雑に関与している。一方,それらのmodulatorとして,tumor suppressorgenes(がん抑制遺伝子)が負の方向へと制御しているものと考えられている。分化の最終段階に到達した細胞では,一定の期間生存すると細胞死(apoptosis orprogrammed cell death)をきたすような設計が組まれている。現在,そのprogramを中断させるようなsurvival factorと呼ばれる諸因子も次第に判明しつつある。
このような細胞の定められた運命に対し,様々の内的,外的因子が遺伝子に異常をもたらすことにより,細胞は決められた本来の運命から逸脱した行動をとるようになる。内的因子とは,例えば遺伝のdata baseである親から受け継いだ配偶子に由来するgerm-linemutation33)とか,細胞分裂の1,000-10,000回に一度起こる染色体の不分離や組み換えによる遺伝子変異である。一方,ある特定の時期にしか転写されない遺伝子は,平常はメチル化されていることが多いが,CpG配列の5'cytosineのメチル化は,脱アミノ化によりthymineへと変換しやすくなる。このようなCpG配列はendogenous mutagenと呼ばれ,ゲノムのなかで最も変異しやすい部位といわれている46)。他方,外的因子とは,ウイルス感染によるウイルス遺伝子の細胞ゲノムへの組み込みによる遺伝子変異をはじめ,様々の化学物質や宇宙線による点突然変異などである。ヒトゲノムのうち実際に翻訳されるのは全体の1%以下であり,それ以外はspacerやintronと呼ばれる非翻訳配列である。従って,点突然変異が即座に遺伝子産物の質的変異につながるわけではない。さらにDNAの自己修復機構により,点突然変異の一部は修復されることもある。しかし,重要なpromoterあるいはenhancerと呼ばれる転写調節領域に変異が起こると,遺伝子産物の量あるいは発現時期の異常,場合によってはそれらの組織特異性に異常をきたす。
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