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はじめに
"免疫"つまり生体が外来抗原の侵入攻撃を受けた時"疫を免れる"機能を有していることは,自然科学の中での医学が確立される以前より考えられたことである。生体に癌細胞が発生し増殖してくる過程において,宿主がどのように対応して行くのかという問題は癌免疫学者がこれまで最も力を注ぎながら,未だ満足すべき結果の得られていない永遠のテーマであろう。これまで癌細胞に対する生体(宿主)が示す排除機能は,主に末梢血中リンパ球(PBL),悪性滲出液中(malignant effusion)リンパ球,リンパ節内リンパ球,さらに腫瘍組織中に存在する腫瘍浸潤リンパ球へと向けられてきた13)。これらリンパ球の抗腫瘍活性の研究は,まず1975年Kohler & Milsteinらによって発見された細胞融合法による単クローン抗体(mono—clonal antibody;mAb)の普及,Herzenbergらのフローサイトメトリー(FCM)によるリンパ球膜表面に発現されている機能分子の解析が可能になったことが大きな原動力になっている。これらリンパ球群の抗腫瘍機構の機能解析,分子遺伝的解明とともに臨床応用が,急速に進められてきたことが,1980年代後半の腫瘍免疫学の特徴といえよう。っまり,これらリンパ球の活性化のシグナルとなる免疫担当細胞並びに付随した血管内皮細胞,線維芽細胞,アマトロサイト相互に作用する液性因子,サイトカイシネットワークが明らかになり,これらサイトカインが遺伝子クローニングされることで,大量の組み替え型(recombinant)サイトカインが容易に得られるようになったからである6)。特にサイトカインの中でも,インターロイキン2(Interleukin−2;IL−2;T細胞増殖刺激因子)は,T.NK(Natural Killer)細胞,マクロファージに作用し,MHC(Major Histocompatibility Complex;主要組織適合性抗原)の拘束を受けず,幅広い腫瘍殺細胞効果を惹起できるからである。このようにしてキラー活性を高めたリンパ球を用いた養子免疫療法が1980年代半ばより始まった27)。
養子免疫療法(Adoptive Immunotherapy)とは,その名の示すとおり,PBLをはじめとして前述したリンパ球群を担癌患者より採取した後に,in vitroで,サイトカイン,mAb,毒素,放射性物質などで修飾もしくは結合させキラー活性を高めた後に(armedkiller),再度生体に注入することで抗腫瘍効果を狙った免疫療法である。この養子免疫療法は,従来のBCG, PSK, OK−432といった生体の免疫力を全般的に向上させる非特異的免疫療法と異なり,癌細胞を攻撃するキラー細胞を用いた特異的免疫療法といえるものである。養子免疫療法の臨床応用の幕開けともいえる1985年,NIHのRosenbergらによって開始された,悪性メラノーマに対するLAK(lymphokineactivated killer)療法を始め,その後,LAK療法の弱点を補強したSTT(specific targeting therapy),エフェクターとなるリンパ球をPBLからTILに変えた治療法に関して,基礎的並びに臨床効果を検討するとともに,分子遺伝学的手法を用いた今後の展望についてまとめてみた。
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