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はじめに
最近,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の初期病変の1つとして,脊髄前角に見られる嗜銀性のspheroidの存在が注目されている。1955年,Smith58)は80例以上の成人剖検例の脊髄を調べ,主に腰仙髄に存在する小嗜銀球を発見し,その染色性および出現部位が軸索付近であること,一端に突起を有する場合もあることなどから,この小嗜銀球が軸索に由来する可能性を指摘して,この分野の研究に端緒を開いた。その後,この小嗜銀球は主に腰髄下部の前角腹側中央部または,より内側部で白質に近接する部位に集落を成して存在すること,および軸索に由来することが確認されている10,45)。1959年,Wohlfart65)は運動ニューロン疾患でも常に嗜銀球(2〜30μ)が脊髄前角,脳幹および大脳皮質に認められることを指摘し,それらが側索病変と比例して出現する傾向があることから,これらの嗜銀球の多くは軸索の終末が腫大したものであろうと考えた。さらに,1968年,Carpenter7)は運動ニューロン疾患で,近位部軸索(proximal axon)の腫大した直径20μ以上の嗜銀球をspheroidと呼び,それより小さいglobuleと区別した。Globuleは一般に正常人にも見られる10,45)のに対して,spheroidは主にALS,特にその経過の短い症例で脊髄前角に認められるからである。このCarpenterの報告以後,spheroidがALSの初期病変として注目されるようになった。特に,井上・平野20,26)が報告した発症後短期間で死亡したALSの1剖検例では,多数のspheroidが認められ,その後の研究に刺激を与えた。本稿では,主にspheroidの光顕所見,免疫組織化学的所見,電顕所見およびそのpathomechanismについて概説する。
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