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1.はじめに
20世紀も残すところ10年となり,我が国を含む先進国では保健医療に大きな変化が起きている。人口の高齢化,慢性疾患の増加などによる医療費問題もさることながら,保健医療の基礎にある医学的モデル(medical model)にもその修正あるいは本質的な変化が生じている。以前には医療の主要な対象は急性感染症であり,多くの患者は比較的短期間のうちに死亡するか治癒するかであった。現在は心身機能の障害を伴うような慢性疾患が中心となり,医療には長期に渡る疾病の管理,リハビリテーションが求められている。昭和62年度厚生省社会局の身体障害者実態調査では,全国の18歳以上の在宅身体障害者数は240万人強であり,原因別では脳血管障害が14.7%と一位を占めている。その他に進行性筋萎縮症など神経筋疾患が身体障害の原因としては増加の傾向にある。
身体障害は疾患や外傷,先天異常によってもたらされ,現在の医療技術では十分に防止できていない。そのため多くの患者は,同時に身体障害者であり,リハビリテーション医療を必要とすることになる。リハビリテーション医療では,不可逆な病理過程を最小限に留め,残された生理的機能を最大限に発揮させるよう治療が加えられている。しかし,その技術の多くは経験的であり,とくに神経疾患については生物学,医学に基礎を置くことが少なかった。これに対して1960年代以後,行動科学,心理学,神経生物学の発展と応用から新たなパラダイムが生まれ,それをRestorative Neurology (機能回復神経学)と呼ぶようになった。もっとも,Restorative Medicine1)(機能回復医学:医師は自己の医学的知識と技術を用いることで,包括的リハビリテーションに貢献する)の考えは以前からリハビリテーション医学の分野では支配的であり,最近は病理学を中心とした疾病指向的アプローチ(disease-oriented approach)に対して生理学・心理学・行動学的な面を重視する機能指向的アプローチ(function-oriented approach)2)という立場を取って,医学的モデルの修正を迫るモデルを提唱している。
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