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I.脊髄前角細胞とは,どのような細胞であろうか
脊髄の横断面をみると,周辺を白質に囲まれた灰白質領域が,H状に広がっており,この領域は,一般的には大きく3つに区分される。それは前角,後角,および側角であるが,前角と後角との境界領域は,側角を含めて中間質と呼ばれることもあり,厳密なものではない。それは延髄に続く頸髄から胸髄,腰髄そして仙髄,尾髄に至るまで,連続して微妙にその形を変えるからであるし,又この境界線を吟味することがあまり意味を持たないことにもよるからである。今回論を進めるに当たり,仮に次のように前角領域を規定した。脊髄中心管の側縁から同側側索の中間質内へ最も突出部する部位に向かって引いた直線より腹側の灰白質とし(図1),これは細胞構築に基づくRexedの分類によるとVIII, IX, Xおよび部位によってはVII層の一部を含む領域に概ね相当すると思われる。この領域は,構成細胞からみても全体として運動機能に関与する領域である。それぞれの構成細胞について神経細胞の大きさ(サイズ)の面から次に述べてみたい。
脊髄前角領域には,様々な形態および大きさからなる神経細胞が存在するが,その中で最も目だつ神経細胞は,いわゆる大型の運動神経細胞と呼ばれるものである。この細胞の形態は多極性で豊富な細胞質を持ち,その中には粗いNissl顆粒を含み,明瞭な核小体を有する核が細胞質の中心部に位置するなどの特徴を持ち,神経細胞の代表としてしばしば図示される。この軸索は脊髄前根を形成して髄外に至り,効果器である骨格筋(extrafusalfibers)にその終末を持ち,電気生理学的にα-motoneu-ronと呼ばれる細胞に相当する。この細胞の大きさについては,直径37ミクロン以上といわれているが9),報告者によってもまた観察される標本の違いによっても若干の差がみられる。例えば,Tomlinson BE et al45))は,ヒト腰仙髄の横断標本(パラフィン)で,motoneuronの形態学的特徴を持つものは,最大径25-80ミクロンの大きさを示し,その中で35ミクロン以上のものは90%以上であり,大部分は45-65ミクロンの範囲に含まれるとし,又ここにはα-motoneuronと共に,γ-motoneuronが含まれるが,これらの区別は困難であるとしている。Kawamura Y et al21)はヒト腰髄(LIII-V)のセロイジン標本で観察した運動神経細胞索に見られる神経細胞とそれに該当する前根に含まれる有髄神経線維のヒストグラムから,α-motoneuronの大きさは33-59ミクロンであるとしている。また塚越ら49)は,ヒト頸膨大部のパラフィン標本による観察で,最小径が25ミクロン以上のものとしてcountされた細胞の中の主なものがα-motoneuronであろうとしているし,直径が32-69ミクロンとする報告もあり,更に大きい値を示しているものもある。これより先に見られる報告では,運動神経細胞の大きさはヒト胸髄で15-45ミクロン12),頸髄で19-70ミクロン25)であるというように,胸髄のα-motoneuronは頸髄のあるいは腰髄のそれに比較してやや小型の傾向がみられ,髄節の違いによっても差がみられる。
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