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平野朝雄先生の名著「神経病理を学ぶ人のために」第2版が上梓された。この書評を受け持つことは評者にとって身にあまる光栄である。書くことはいくらでもある。平野先生は評者が17年前にウイーンでの留学より帰国し,日本で近代的な神経病理を手探りで学びはじめたころにはすでに世界のトップを走っており,電子顕微鏡を自由に駆使した素晴らしいお仕事はいつも評者に目標をしめしてくれたものである。1976年に本書の初版を手にした時には,その集大成ともエッセンスともいってもよい内容に,文字どうり魅惑されたといってよい。神経系の正常と病的状態の形態が極めてわかりやすく,明快に記述されており,一気に読んでしまったのを思い出す。その後も座右の書として,顕微鏡をみてわからないことがあるたびに何度も読みかえした。それはこの本が神経系の病変の原理を教えてくれるからである。入門者にも経験者にも原点となる本である。
この第2版で最も改訂されたのが,この中核といってもよい「II.細胞からみた神経病理学」の章である。この部分は神経細胞を中心にグリア,髄鞘,脈絡叢,髄膜,血管について,最新の知見が豊富にちりばめられており,この10年間の神経病理の進歩が極めて新鮮に感じられる。このような教科書はほかにはない。そして,驚くべきことには,その殆どがこの間に平野先生のところで学んだ日本の研究者によるものである。このことは,挙げられた文献をみると明らかである(文献はすべて新しくされている)。その研究室がいかにproductiveであるかがこれからも推察される。したがって,この章は著者のまえがきにある「神経病学の一般を浅く広く知ってもらうために書いたものである」というにはあまりにも充実している。
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