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本書を手にとってみて,まず感じたのは美事な電子顕微鏡写真の多いことである。組織の白黒写真でこれほど多くを語るのに電子顕微鏡にかなうものはないと思わせるに十分である。著者の安達先生,平野先生はともに電子顕微鏡による神経病理学のパイオニアであり,この領域に大きな進歩をもたらしたことを忘れることは出来ない。この様な著者の眼で編集されたことを十分に窺わせる内容である。一方,神経機能にとって極めて重要な中枢神経および末梢神経の有髄線維を構成するミエリンと軸索の研究はまさに電子顕微鏡なしには語れないのである。そして,S.Palayによって,ミエリンを造るのはSchwann細胞か軸索かが解決されたのは,ほんの少し前の1959年のことである。軸索はSchwann細胞によって造られたミエリンによって囲まれているmyelinated axonであることが確認されたのである。その後の神経化学の進歩にともなってこのmyelinated axonの障害される多くの病気が見出され,その原因のわかったものも少なくない。本書は電子顕微鏡を駆使したこれらの疾患の最新の研究のハイライトであるといえる。
本書であつかわれている内容は自己免疫疾患,中毒,感染症,遺伝性疾患であり,これらにみられる髄鞘の変化—demyelination,remyelina—tion,dysmyelination—と軸索の病変である。これに25人の著者が16項を分担執筆しているが,そのうち日本人が12人とほぼ半数を占めているのも一つの特徴である。本書の出版は日本人の優れた業績が世界に紹介されるよい機会を作ったといえよう。とくに先天的なミエリン形成障害のモデルであるmutant mouse,dystrophic mouse,運動ニュウロン疾患のモデルのwobbler mouse,脱髄疾患におけるmyelin antigen,dysgammaglobulin neuropathy,実験的thiamin.deficient encepha—lopathy,実験的disutfiram 中毒そして本邦に特異なNasu 病(mem—branous lipodystrophy)がそうである。そのほか,C.S.Raineらによるchronic relapsing EPE,MSにおけるミエリンの再生の間題,S.S.ErlichらによるJHM virus感染におけるviral-induced demyelina.tionのモデル,P.C.Johnsonによるdiabetic neuropathyがとりあげられている。
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