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まえがき
日本住血吸虫病(以下日虫病)の脳障害についての文献(1890〜1982)を集めてみると,その多彩,多様なのに驚く。それらはいずれも外因反応型の範囲を出ないが,同じ感染症とは言っても,他の寄生虫やビールス,細菌などの場合とは,どこか違うようにみえる。例えば肺吸虫,有鉤条虫,エヒノコックスなどの寄生虫の場合は,それらの成虫,幼虫ないし虫卵が脳内に侵入して,粗大なspace-occupying lesionを作るだけであり,またかつて脳症を起す感染症の代表であった腸チフスでは,しばしばみられる譫妄の他に,昏蒙,昏迷,痙攣その他の状態像を示し,その病因としては細菌毒,異常代謝産物,雨行障害,高熱などが複合して働くといわれるが,それらの病因の組合せはたいてい一色,一通りなのに対し,日虫病では主となる病因または諸病因の組合せがそれぞれ異なっているように見える点が特色といえる。
日本住血吸虫(以下日虫)は哺乳類の宿主の体内に長期間寄生して,種々な時期に,いろいろな手段で,宿主の生体に侵襲を加える。その手段としては虫体,虫卵の機械的作用,その新陳代謝産物の毒素作用,抗原としての作用および肝障害,殊に門脈障害を介しての二次的作用などが考えられ,それらは複合して,あるいはいずれかが主因として働く。それらの侵襲に対して,宿主の体内にはそれらに対応する種々な生体防衛反応が起り,それが日虫病の病態,症状,経過などを決定する。この生体反応に関係する条件としては,感染の強弱,初感染または反復する再感染,急性期,亜急性期または慢性期の別,肝障害の種類や程度,門脈系以外への異所寄生,宿主の先天性抵抗力あるいは感染免疫,宿主の栄養状態,酒精中毒,肝炎その他の合併症,治療開始の時期や方法などが考えられる。前記の生体反応に脳が捲込まれた際,病因の多様性に対応して,いくつかの型の脳合併症が起り得る。
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