Japanese
English
総説
老人脳の生化学
Biochemistry of aging brain.
西村 健
1
Tsuyoshi Nishimura
1
1大阪大学医学部精神神経科
1Department of Neuro-Psychiatry, Osaka University, Medical School
pp.769-780
発行日 1981年8月1日
Published Date 1981/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406204801
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はじめに
脳機能を担う神経細胞は固定性分裂終了細胞に属し,脳組織の分化完成後は分裂や再生を行わない。したがつて,神経細胞の加齢に伴う変化は個体の老化と平行して一貫して連続的に進行する。この点から,従来,脳や神経細胞は老化研究に適した対象とされてきた。それにもかかわらず,従来,脳の老化に関する生化学的研究は活発に行われてきたとは言えない。実験動物の脳の加齢に伴う変化を追う研究の大多数は発育期から成熟期にかけてのものであり,真の老齢動物についての研究は多くない。それはおそらく幼若動物と比べて老齢動物を入手することが困難であることによるものであろう。人脳の老化過程の生化学的研究は動物脳の場合よりも一層大きな方法論的な困難のために立ち遅れている。これまで人脳老化の研究は形態学を中心に進められてきた。加齢に伴う人脳の形態学的変化の代表的なものとして古くから脳の全体的な萎縮,脳室拡大,神経細胞数の減少,リポフスチン沈着,神経原線維変化,老人斑,顆粒空胞変性などが知られているが,最近約10年間にようやくこれらの形態学的変化に対応する生化学的所見を追究しようとする研究が活発になつてきた。実際,部分的にはかなりの成果が挙げられているが,全般的にみて老人脳の生化学的研究はやつと本格的になろうとしている段階である。
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