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編集後記
塚越 廣
pp.233
発行日 1977年2月1日
Published Date 1977/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406204030
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- 文献概要
昨年の最後の連休日のことであつた。大分前から歯が痛み,休みの1週間程前に歯科医を訪ねた所,歯根膜炎で抜歯せねばならないが,炎症がおさまつてから抜きましょうということであつた。しばらく通院,服薬してみたが,痛みは一向に軽くならない。連休の前日になつても歯痛が続くので,面倒だから抜いて下さいと頼んでみた。歯科のお医者さんは頭をひねつていたが,それでは抜きましょうと抜歯してくれた。
連休日は歯の痛みを忘れてのんびりしようと早目に抜いてもらつた積もりであつたが,こちらの思い通りにことは運ばなかつた。いつもなら抜歯後間もなく痛みは止まるのに,今回は止まる所かますます強くなる。はじめは気持の悪い鈍痛だつたのが,時間と共に激痛に変つていつた。急いで抜歯して炎症が広がつたのだろうと思つてみてももう遅い。激痛は抜歯部から起こり,同側の上顎を通り顔面全体に広がり,消えたと思うとまた起こる。痛みの持続は数秒にすぎないが,激痛のたびにうめき,口を大きくあけ,顎を左右に動かし,顔をゆがめるだけではなく,くびを左右にふり,体を前後屈させる。我ながら情けない恰好をしていると思うが,どうしようもない。これが三叉神経痛というものかと気がつくと共に,これを疼痛性チック(tic douloureux)とはよく言つたものだと一人で感心した。それまで漠然と疼痛性チックについて考えたことはあつたが,自分で経験してみて,チック様の妙な動きをせずにいられないほど大変な痛みであるということがしみじみ分つた。
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