赤毛猿視床下部におけるカテコールアミン神経終末の分布

DISTRIBUTION OF CATECHOLAMINE NERVE TERMINALS IN THE RHESUS MONKEY HYPOTHALAMUS

I．はじめに

　視床下部は自律機能の中枢としてよく知られており，外傷や脳血管障害の急性期にみられる水分代謝異常，心電図異常，消化管出血などの症状も視床下部の機能異常に起因すると考えられている。生化学的^2）には視床下部はノルアドレナリン（NA）やドーパミン（DA）のようなカテコールアミン（CA）を始めとする生体アミンを多く含む部位として知られており，視床下部の機能に関与していると考えられていたが，CAの存在様式や視床下部内での微細な分布についての知見は充分ではなかつた。1962年にFalckとHillarpら^7）によつて発表された螢光組織化学法はNA, DA，セロトニンのような生体モノアミンを顕微鏡下で観察することを可能とし，形態学的研究に飛躍的な進歩をもたらした。Dahlström^6）やFuxe^10）はこの方法を用いてラットの脳を検索し，NA,DAおよびセロトニンを含む神経細胞が存在し，その神経終末とみなされる瘤状構造（varicosity）が脳内の多くの部位に分布しており，とくに視床下部は豊富な神経終末の存在する部位であることを明らかにした。その後の多くの研究者によつて中枢モノアミン神経系の形態学的研究がなされ，猫^18），犬^13），猿^8），人胎児^19）においても，脳幹モノアミン含有細胞の分布は基本的にはラットと同一であることが知られるようになつた。しかし，モノアミン神経終末の分布に関するラット以外の哺乳動物での知見はいまだ充分とはいえない。また，末梢交感神経のNA線維が脳表の動脈のみならず，脳内の小動脈の周囲にも存在することはよく知られているが，これとは別に，近年ラットにおいて中枢NA神経終末が脳内の微小血管に近接しているとの報告^4,6,10）がなされている。われわれは霊長類の一種である赤毛猿を用い，臨床的に多くの病態と関係が深いと思われる視床下部におけるNAおよびDAの神経終末の分布をFalck-Hillarp法を用いて検索し，今までに報告のみられたラット，猫，人胎児との比較検討を行なつた。

Using the Falck-Hillarp method, the distribution of catecholamine nerve terminals in the rhesus monkey hypothalamus was studied. The distribution pattern was fundamentally similar to that in the rat, cat and human fetus; abundunt catecholamine varicosities (presumed noradrenaline nerve termi-nals) were observed in the dorsomedial nucleus, supraoptic nucleus, paraventricular nucleus, medial forebrain bundle, periventricular layer and internal layer of the infundibulum, while little were in the mamillary nucleus, ventromedial nucleus and an-terior hypothalamic area. A band of diffuse green fluorescence (dopamine nerve terminals) was ob-served around the capillary loops in the external layer of the infundibulum. The discrepancy with the rat was noted in the abundunt noradrenaline nerve terminals in the suprachiasmatic nucleus and denser innervation of them in the arcuate nucleus and internal layer of the infundibulum.

In addition to the noradrenaline nerve fibers from the peripheral sympathetic NA nerve, the noradre-naline nerve terminals of central origin closely approximated to the small intracerebral vessels.