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本書は「神経学の進歩」シリーズの13巻で,このシリーズのCurrent Reviewsとしては2回目であり,7題がテーマとしてとりあげられている。昔からある基礎的な問題や重要な問題,あるいは最近のトピックスが含まれている。1)多発性硬化症の原因としてウイルス感染の可能性が有力であることをのべ,発病年齢,地理的分布,移住民の調査などから,本疾患は15歳までの感染が関与する遅発性ウイルス感染であろうという。ウイルス感染による脱髄性病変や緩解増悪につき述べ,原因ウイルスの証明法を論じている。2)近年各種幻覚剤,(LSD,アンフェタミン,マリファナ)が広く用いられることから,社会的な問題としても,これら薬剤の研究が重要であるとのべ,臨床,動物実験の両面から検討している。3)てんかん発作の生化学的研究より治療法を考案するのには神経伝達物質の研究が有用である。伝達物質の存在,部位,その濃度,受容体および機能的関連性について検討している。アセチルコリンとグルタミン酸が興奮性物質,ノルエピネフリンとGABAが抑制物質であり,コリンアセチラーゼ阻害剤や,グルタミン酸遮断剤はてんかんに対する合理的治療法であろう。4)悪性脳腫瘍に対する化学療法についてその効果を明確にするためには,各抗癌剤の薬理,血液脳関門の透過性を考慮し,統計学的処理ができるように患者を選択し,更に手術,放射線療法との関係を明らかにして実験計画をたてる必要がある。これまでに10数種類の薬剤が検討されているが,単独で明らかに有効なものはほとんどなく,作用機序の異る薬剤の併用により効果の認められる場合があるという。5)発育初期における栄養障害がその身体的・精神的成長に不可逆的な障害をもたらし,脳細胞の数および大きさの滅少,DNA合成,酵素活性,各種脂質それぞれの低下がみられる。これらの変化がヒトの行動面に及ぼす影響について検討すると,栄養障害以外社会的経済的諸条件が関連して判断は困難であるが情緒,知能になんらかの影響があるようである。6)髄液の分泌と吸収に関する生理について,脈絡叢における髄液の分泌に関する各種の研究方法,薬剤その他の影響,吸収の主な経路の検討がなされ,また脊髄腔では髄液の分泌に関する証拠はないという。また髄液と脳の細胞外液との関係をのべ,更に正常圧水頭症の病態生理につき,診断と治療の関連より論じている。7)薬剤の薬理動力学的知識を豊富にすることにより,薬剤による副作用ないし医原病を惹起しないように留意すべきことを強調し,薬剤の吸収,分布,蛋白との結合,代謝ならびに関連酵素,排泄,更に各種薬剤の併用効果が論じられ,Diphenylhydantoinをモデルとして検討されている。
以上,いずれの項目においても,各主題に関していろいろな観点から論じており,それぞれ関連する多数の文献をあげているので参考になる。
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