書評
—稲永 和豊 著—フォローアップ 臨床脳波アトラス
岡本 重一
1
1関西医大
pp.1315
発行日 1973年10月1日
Published Date 1973/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406203394
- 有料閲覧
- 文献概要
表題に「フォローアップ」とことわつてある点からも,おおよそ本書の意図・性格がうかがえるが,著者は序言でも「臨床脳波をよりよく理解するためには……追跡観察がきわめて大切であることを痛感させられた」とその趣旨を述べている。なんといつても,脳波の歴史が未だ浅いためもあり,従来脳波アトラスといえば,ほとんどが正常ないし異常脳波の標準的な見本が並べられていたといえよう。たしかに,それはそれで根本的に必要なことではあり,特に初心者の指針として必須である。しかし,一般に単なる診断上の目的だけからいつても,他の諸々の方法と同様に,横断面的な一回だけのデーターから判断を下し難いことが少なくない。極端な場合,強制正常化のような現象もあり,頭部外傷例にみられる脳波異常が問題の外傷によるものか外傷以前からあつたものかを識別するためにも経過による脳波変遷が参考になることもある。ことに,種々の精神神経疾患で予後を推測しつつ適切な診療方針をねる上にも,脳波変遷が必要となることはいうまでもない。
それらの点で,著者の意図も充分に理解でき,むしろ一つの貴重な先鞭をつけたものともいえよう。しかし,これは一見容易に思えるが,まず膨大な脳波記録を如何にしてうまく保管しておくかという実際上の難問がつきまとう。この点,著者の企画とその努力に対して敬意を表したい。ことに,著者が多くの急性一酸化炭素中毒例を集め,また多くはないが剖検所見,ある脳疾患例をも集められたことは貴重な資料といえる。
Copyright © 1973, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.