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〔96〕分画気脳法による後頭蓋窩腫瘍の診断法
天幕下腫瘍が疑しい症例に脳室造影術を行なつても十分な診断的所見が得難いものが少なくないのに対し,気脳法により後頭蓋窩腫瘍の診断が安全にかつ確実に行なわれ得るのでつとめてこれを実施するようにした。またそのための装置を考案し使用中である。すなわちレントゲン室において坐居患者に腰椎穿刺を行ない,分画酸素注入による少量のガス使用によつて頭蓋内圧を変動させずに,小脳篏頓の有無,第四脳室の位置形状,中脳水道の形状,後頭蓋窩蜘網膜下腔の模様,さらに第3脳室の下縁の形状等を瞬間撮影を行なつて知ることができた。また酸素を小脳側縁や側頭骨岩様部に送りTowne氏撮影を行なつて,小脳または聴神経腫瘍,橋腫瘍等の診断と所在を適確にくだすことができた。その結果,後頭開頭の必要の有無や有効開頭範囲を手術前に予知することができ,小脳腫瘍や聴神経腫瘍に似た症状を呈した症例を鑑別することが可能であつた。正常成人の第四脳室及び中脳水道のレ線左右像においては,我々の計測値はEpstein等のものと大差なく,後床突起から中脳水道上端まで平均40mm第四脳室床から斜台までの間隔は平均36mmであつた。撮影にはTowne氏撮影と左右方向撮影の両方を併用する必要があり一方が異常でも他方が異常所見を示さないものがある。聴神経腫瘍,小脳腫瘍橋腫瘍,その他の後頭蓋窩腫瘍により後頭開頭を受けた症例数は過去1年5カ月に46例あるがそのうち24例は分画気脳法によつて確実に診断され,また予測された危険もまつたく防止できた。分画気脳法は天幕上腫瘍症例で従来気脳法が危険とされたものにも後頭蓋窩腫瘍症例と同様の手技にて実施し得るものである。
危険な合併症に対し,しかしながら常に備える必要はもちろんであり,そのため頭部を剃毛しまた手術準備を行なうことの他に,常にtwist drillを用意して,頭蓋内圧の下降を測るべく,容易に脳室穿刺を行ない得るよう考慮する必要がある。
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