- 有料閲覧
- 文献概要
著者のR. L. Friedeはミシガン大学精神科の組織化学助教授であるとともに精神衛生研究所のResearchNeuromorphologistである。1957年から脳の組織化学的研究を発表しているが,おもにモルモットとラットを材料として,琥珀酸脱水素酵素による脳の生後発育,大脳皮質の構築,酸化酵素反応による視床と大脳皮質との関係などを追究している。本書は題名が示すように,猫の脳幹の組織化学的方法による組織酸化の図譜である。版はB4版の大型で,総頁は約70頁,このうち23頁が写真で,のこりを英独併文の解説がしめている。解説は方法,所見,考按に大別される。方法のところでは著者が使用した琥珀酸脱水素酵素,DPN diaphorase, TPN diaphorase,チトクローム酸化酵素染色法を述べるとともに,本書を特徴づけている酵素反応呈色度の測定法と毛細血管密度の測定法が詳細に説明してある。所見は琥珀酸脱水素酵素反応の測定値と毛細血管密度を比較することからはじまり,ついで核別に詳しい所見が述べられる。考按のところでは文献的考察(阪大解剖清水教授の文献も引用してある)や組織化学の応用などにふれている。附図は巻末にまとめられ,右頁には12枚の前額断切片の琥珀酸脱水素酵素染色標本の全景像をしめし,左頁には同じ高さの他の染色標本や強拡大写真が収録してある。全景像には要領のよい略図がつくので,脳の解剖学に親しみのない方でも理解が容易である。また,この略図には酵素反応呈色度の測定値も記入してある。写真は印刷が鮮明であり,版が大きいので細部までよくわかる。
本書は綜説でもなく解説書でもない。むしろ単行本の体裁をとつた原著である。したがつて,この方面の現状を全体的にむらなく,かたよりなく理解するのに適した本ではない。しかし,組織化学はごく新しい学問であるから,現在は所見を集積する時期であるといえる。今日の綜説は明日になると通用しなくなる可能性もある。本書が徹底した所見中心主義をとつたのは本書の生命を長くすることになろう。本書の所見と附図はこの方面の研究の基礎的データとして,いつまでも引用されることになると思う。さらに,本書でとりあつかつている対象にっいては著者の詳細な所見と見解が述べてあるから,脳に興味をもつている方は,専門の別なく,多くの示唆をうることができると思う。これらの意味で,本書は脳の解剖学者のみならず生化学者,生理学者,臨床医家必携の本であるといえる。
Copyright © 1962, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.