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はじめに
霊長類においては,個体集団の大きさと脳のサイズが比例することから,社会的認知機能[集団生活(社会生活)の中で生存していくために必要な認知機能の総称]は,最も重要な脳機能の一つであると考えられている。集団生活で適切な人間(個体)関係を構築するためには,他者に対する適切な社会的認知に基づいて,自己の情動発現も適切に行われなくてはならない。例えば,表情より相手が怒りの感情を抱いていることが推測され,さらに自分が怒りの対象になっているときには自己に対する攻撃行動が予測される。この他者の心や感情ならびにその行動を推測する過程が社会的認知である。さらにこの社会的認知に基づいて,自己の脳では自己生存のために恐怖や憎悪の情動が喚起され,逃避あるいは攻撃行動を起こす。この過程が情動発現である。すなわち,他者の言葉,表情,行動などから他者の意思,思考,感情などを推定する過程が社会的認知であり,ついでその認知内容を自己の生存という判断基準に基づいて評価(生物学的価値評価)することにより喜怒哀楽の感情(情動)が喚起され,その情動を言葉,表情,行動として表出する過程が情動発現である。これら一連の過程は,他者と自己の情動が互いに影響し合う反応であり,情動を社会的コミュニケーションの重要な手段として位置付けることが可能である。
これら社会的認知および情動発現の機能には,脳内の特定領域が関与するのであろうか? これまでの研究を総合すると,単一の脳領域で社会的認知および情動発現の全過程が行われるのではなく,いくつかの領域がコア・システムとして作動し,これらの領域を中心に脳全体が社会的認知および情動発現のための一つのシステムとして機能していると考えられる。このコア・システムには,扁桃体,前頭葉眼窩皮質,前部帯状回などが示唆されており,本稿ではとくにこれらコア・システムの機能に関して最近の知見を概説したい。
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