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はじめに
コミュニケーションとは,言語や文字など視覚や聴覚に訴えるものを媒介とする,社会生活を営むヒトの間に行われる知覚・感情・思考の伝達である。生物学的には,動物個体間での,身振りや音声・匂いなどによる情報の伝達や,細胞間の物質の伝達または移動もコミュニケーションと呼ばれる(『広辞苑』第5版より)。
ヒトの間でのコミュニケーションの主体は,言語や記号を用いたコミュニケーションである。言語と脳の関わりについての研究は,失語症研究などにより,古くより明らかにされてきており,1914年に発表されたデジュリーヌの図式は臨床的には未だに陳腐化していない。近年では,言語学者と脳科学者の学際的共同研究が盛んに行われており(例:http : //www.lbc.coe.tohoku.ac.jp/),言語と脳の関係についての研究は日々進歩を続けている。
一方,より人間らしい豊かなコミュニケーションを行うためには,顔の表情,体のしぐさ,声の抑揚など非言語的な要素によるコミュニケーションが重要となる。言語コミュニケーションは,民族や種族,文化によりまったく異なった形態をとり,少なくとも表現上はユニバーサルなものではないが,非言語コミュニケーションは文化を超えて共通であり(Ekman and Friesen, 197510)),ヒト以外の動物にも存在することが指摘されている(Hauser, 199613))。神経心理学的には,大脳右半球の前頭葉底面(眼窩前頭回)から下前頭回の損傷により,顔の表情の理解に障害が起こることが知られており(Ross, 198128);Ross and Mesulam, 197929)),さらに扁桃核の障害では,特に恐怖の表情の認知,評価に障害が現れることが知られている(Adolphs et al., 19942))。しかし,言語コミュニケーションと脳の関係と比べて,非言語コミュニケーションと脳の関係の解明は進んではいない。
そこで,本稿では,近年の脳機能イメージング研究成果を中心として非言語コミュニケーションと脳の関係について考察をする。
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