Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
1995年以降にわが国の脳神経外科領域における胚細胞腫瘍の治療研究は躍進した。この発展の最大の要因は,松谷が主張したように,病理組織診断をつけてから個々の腫瘍の治療方法を選択するというきめ細かな病態追求があったからである。最近では,内視鏡を用いた生検術と第三脳室開窓術や手術前補助療法(neoadjuvant therapy)の方法7)も広まり,より低侵襲でより治癒率の高い治療法の開発もある。しかしながら,個々の腫瘍の病理悪性度に応じて治療侵襲を逐一最適に設定すべきであることを忘れてはならない10,12)。
中枢神経系原発胚細胞腫瘍(primary CNS germ cell tumors)は,生殖器原発のものと比べると頻度は低いが,病理組織学的にも生物学的にもほぼ同様の性質を示す。しかし,生殖器原発腫瘍が高頻度に転移するのに対し,中枢神経系腫瘍の最大の特徴は中枢神経外部への転移が例外的であることであり,したがって両者の治療方針の基盤は異なるし,生殖器腫瘍の化学療法プロトコールをそのまま転用することはできない。
発生部位が小児の視床下部や松果体部なので,手術全摘出がしばしば困難である一方,グリオーマとは違って放射線・化学療法に感受性を示す腫瘍が多いので補助療法の重要性は逆に高い6)。しかし,胚細胞腫瘍とは表1のような腫瘍群の総称であり,組織型の組み合わせによって治療反応性がそれぞれ異なるので補助療法の選択には高度の専門的知識が必要である。
日本脳腫瘍統計5)では,原発性脳腫瘍52,196例中,胚細胞腫瘍は1,478例(2.8%)である。胚細胞腫瘍の中に占める胚腫(germinoma)の比率は高く70%(1,037例)であり,他の腫瘍型はその10分の1あるいはそれ以下の頻度で稀少腫瘍といえる。胚腫と成熟奇形腫を除けば純型は少なく,詳細に組織像を検討すれば混合性胚細胞腫瘍の頻度が高くなる。例えば,未熟奇形腫に胚腫が混在する症例では,混合性胚細胞腫瘍と病理診断されるが,診断と治療は胚腫と未熟奇形腫の両者の性質を踏まえて行うことになる。
発生頻度と部位には明らかな性差があり,松果体原発腫瘍は男性に圧倒的に多く女性に少ないし,胚腫以外の組織型は男児に多い。発生部位は80%以上が第三脳室近傍すなわち,視床下部・下垂体後葉(neurohypophyseal germ cell tumors)と松果体(pineal germ cell tumors)の2つの部位に集中する。両部位に同時に発生する(synchronous tumor)ことは珍しくないし,画像上,松果体腫瘍のみが顕在であって視床下部(第三脳室壁)の腫瘍が潜在していることも多い。治療の方針は,年齢と腫瘍発生部位に応じてその密度を変える必要がある。例えば,年長児の松果体腫瘍であれば高線量の照射は可能であろうが,低年齢児の視床下部腫瘍であれば放射線治療の侵襲はより大きくなると思わなければならない。
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.