- 有料閲覧
- 文献概要
第23回日本生物学的精神医学会は,2001年4月11日から13日の3日間,長崎大学精神神経科学講座教授中根允文会長のもとで,長崎ブリックホールにおいて開催された。今回のメインテーマである『精神疾患の包括的な解明を目指して―手をつなごう心の世紀に』は,2002年8月に横浜で開催予定の世界精神医学会を多分に意識したものと思われるが,「これまでに展開された精神疾患の生物学的なアプローチによる病因解明や臨床症状の理解についての知見を前提に,さらに関連分野の情報を加えて総体的かつ包括的な精神疾患解明を目指すチャンスにしたい(中根会長の抄録集あいさつより抜粋)」と提案された。以下に,今学会の内容をかいつまんでご紹介することにしたい。
恒例の若手プレシンポジウムは開会に先立って,第1日目の午後に開催された。前田潔(神戸大学),辻村徹(長崎大学)が座長を務め,『精神疾患の新しい生物学的治療アプローチ』というテーマのもとで,以下の5名のシンポジストがそれぞれの立場から提言や報告を行った。まず,高野晴成(国立精神・神経センター武蔵病院)は「パルス波電気けいれん療法によるうつ病治療―臨床的有用性と作用機序の検討」と題し,すでに欧米では一般的となっているパルス波治療器を用いた電気けいれん療法の実際を紹介した。福迫博(鹿児島大学)は「精神神経科領域における連続経頭蓋磁気刺激の現状」を紹介し,近い将来,この治療法が精神疾患に対し用いられる可能性について論じた。山田光彦(昭和大学鳥山病院)は「精神障害の治癒機転解明とゲノム創薬」と題し,ポストゲノム時代のいわゆる逆薬理学の立場から従来の既成概念にとらわれない新規の抗うつ薬を探索する試みについて述べた。近藤毅(弘前大学)は「薬物反応性の予測―薬理遺伝学の応用可能性」という題目で,薬物動態学的のみならず薬力学的な立場からも,薬物反応性の予測における薬理遺伝学の有用性と限界について述べた。最後に,松尾雅文(神戸大学)は,「遺伝子治療の新しい方向―Duchenne型筋ジストロフィーのアンチセンスオリゴヌクレオチド治療」と題し,遺伝性筋疾患に対する遺伝子治療の具体例を示した。5人の演者の講演内容は,現時点ですでに利用可能なものからやや遠い将来の予測まで広い範囲にわたっており,精神疾患に対して新たな治療的アプローチを試みようとする大変意欲的なシンポジウムとなった。
Copyright © 2001, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.