巻頭言
医学における科学性と臨床性
神庭 重信
1
1山梨医科大学精神神経医学講座
pp.690-691
発行日 1998年7月15日
Published Date 1998/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904573
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医学の自然科学化
欧州でルネッサンスの効果が医学に及んだのは16世紀であった。コペルニクスの地動説に代表されるように,自然科学の勃興の波を受けて,観察と実験に基づく医学の在り方が模索され始めたのがこの頃である。例を挙げれば,ヴェサリウスを頂点とする解剖学の隆盛がそれである。人体の精密な構造が暴かれた時に,古代西洋医学の権威は失墜したと言われる。
17世紀は,ガリレオ・ガリレイによる自然の数学化が行われ,天文学や物理学の大発見が相次いだ時代である。学問の目的は自然を支配することにあった。厳密な帰納法が医学の研究にも必要であると説いたフランシス・ベイコンの科学的世界観や,ルネ・デカルトに代表されるように,こころと体とを分離したものとみなす心身二元論の立場に立つことで,体は固体および液体の集合体であり,必ず物理的なあるいは化学的な自然法則で解明できるシステムであるとする考えが一般化した。その最たる成功例が,英国の医師ウィリアム・ハーベイによる血液循環の発見であると言われる。彼は,血液が心臓の生理学的な運動により体内を循環していることを実験と計測で説明した。
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