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長らく大学で「精神医学」の講義を担当してきたが,毎年の講義内容を見直すさいに必ず注意していたのがKaplan HI & Sadock BJ著「Comprehensive Textbook of Psychiatry」(通称CTP)であった。その最新版はアメリカを中心とする精神医学の現況を知るのに有用であり,項目によっては第1版(1967)まで遡って見直すことも少なくなかった。しかし,それは分冊された膨大な内容であり,手軽に読めるものとは言いがたい。そのSynopsisも世界中で読まれて好評であったが,そのポケット版がSadock BJ,Sadock VA著「Kaplan & Sadock's Pocket Handbook of Clinical Psychiatry」である。日常の診療場面で手軽に参照できる実践的なガイドブックを目指して作られたものであるが,その今世紀初めての改訂版が第3版の本書(2001)であり,融道男,岩脇淳両氏によって注意深く監訳されている。両氏は第2版(1997)も監訳しており,それは好評のうちに第4刷まで増刷された。
第2版と読み比べてみると,最近4年間の新しい情報が多く取り入れられているのは言うまでもないが,一覧表を増やして使いやすくする工夫を凝らしているのが目立つ。内容はDSM-Ⅳとそのtext revision(DSM-Ⅳ-TR)に準拠したものであり,精神医学の広領域をカバーしている。今回の改訂で特に目をひくのは,治療面で新世代の抗精神病薬や抗うつ薬の臨床指針,薬物相互作用などを盛り込んだほかに,精神療法の項目の紙数を増やして治療方法の選択肢を増やして整理していることである。臨床検査と画像診断の充実にも工夫がみられる。しかし本書の特徴は,精神科面接から始まり精神医学的現症の診察法,DSM-Ⅳ-TRによる診断分類,治療と進む診療の流れをきちんと押さえているところであろう。
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