巻頭言
精神療法のゆくえ
小此木 啓吾
1,2
1東京国際大学人間社会学部
2慶應義塾大学総合政策学部
pp.230-231
発行日 1996年3月15日
Published Date 1996/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904056
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ここ何年か,米国で精神科医を長年やっていて,日本に帰国された方とか,帰国願望を強く抱いている方にしばしばお会いする。その理由は,中高年世代のこれらの精神科医たちにとって,もはや米国の診療機関の中では,良心的な治療,つまり精神療法を主体とした治療ができなくなってしまったからだと語られることが多い。「このまま米国にいると,自分の長年身につけた精神科医アイデンティティが失われてしまう」と訴える人もいる。
どうやら米国の精神医療の中で,精神科医による精神療法は,もはやそのポジションをほとんど失ってしまった感がある。日本でかなりの精神療法の研修を受けて,米国の一流病院の精神科に留学した某精神科医は,「先生,早く日本に帰らないと,せっかく日本で勉強したことを忘れそう。」と言う。
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