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このところ,医療における患者の人権が強調されている。インフォームド・コンセントがその具体的な現れである。精神保健法の2大目標の1つである精神障害者の人権尊重もこうした医療全般の変化と無縁ではない。また,人権を大切にする考えは,何も医療あるいは精神医療に限ったことではない。人権が国際会議の最大のテーマとして扱われるご時勢なのである。今世紀の人類が獲得した最大の成果は人権尊重と科学技術の爆発的進歩の2つといわれる。しかし,この両者が別個のものとして存在するのではない。人ひとりひとりが,当然のこととして科学の発達によってもたらされるより快適な生活を求めている。それを支えているのが情報化社会といわれるものである。情報化社会というのは,個人のニーズを賦活することでもある。精神保健法における人権尊重もそうした文明論的視点を持ったものであらねばならない。精神衛生法から精神保健法への変化を促した1つの力が外国からの批判であったのも情報化社会を見据えてかからねばならないことを示している。精神障害者の人権尊重は,入院形態や行動制限についての法的手順を守ればすむものとは思われない。精神医学ならびに関連科学の最近の進歩がもたらしている医療技術をもって,患者に必要で適切な治療を行い,治癒あるいは社会復帰をもたらす努力をも含んでいる。さらにまた,クオリティ・オブ・ライフを求めることも患者の人権のうちであろう。
アメリカ科学アカデミー(1978)がプライマリーヘルスケアの立場から,適正な医療を評価するための5つの因子を定めている。それは,①サービスへの接近性accessibility of services,②サービスの継続性continuity of services,③サービスの包括性comprehensiveness of services,④サービスの総合調整性coordination of services,⑤サービスの責任性accountability of servicesといわれるものである。頭文字をとってACCCAと略称されている。私は,この医療の適正な質を表す要素は精神医療にも当てはまると考えている。この中の責任性というのは,サービスの成果を評価し,スタッフが常に必要な知識と技術とを学習し,患者に情報を正しく伝えて同意を得ることなどを指している。また,経済的配慮もこの中に含まれている。こうした視点から,我が国の精神医療を見直してみると,適正な質の確保には程遠いといわねばならない。それを改善するには医療経済の確保なしには実現しない。その点で,私どもは深刻なジレンマの中にいる。
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