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Ⅰ.国際精神療法学会と国際神経精神薬理学会,両学会の最近の総会から——薬物精神療法の意義
精神疾患の本質の理解についての身体学派と心理学派との対立は歴史的にはげしく,治療哲学も技法もまったく別の世界のごとき様相を呈していることは不幸なことである。最近では社会因を強く信ずる人たちも現れて,混乱は一層はげしくなっている。実在としての人間にかかわる以上,多次元的なものを統一的に理解し,とりくまねばならないのに現実は決してそうではない。向精神薬療法が現れて,従来の疾病論は経験的に大きくゆさぶられているのに,上述の対峠は一向に変わらない。一応の臨床家ならば,従来内因性といわれていた精神分裂病が患者一人一人に特徴があって,薬を使えば使うほど,精神療法的に接近し,また,家族内力動の改善を望むようになり,他方,心因性といわれていた神経症者のかなりが,抗不安剤によく反応することを知っている。それなのに,そうした臨床的事実は一向に学問体系に影響を与えていない。Lehmann, H. E. 12)(1971)は向精神薬療法が精神医学の疾病分類や診断学に与えた影響についてふれているが,それもあくまでも身体論の立場である。一般にかたくなで,内心に強い不安を持っている精神病者や神経症者とかかわっていると,治療者まで自分の立場にこりかたまってしまうらしい。
ごく最近の精神療法に関する国際会議(Oslo 1973)と神経精神薬理学をに関する国際会議(Paris 1974)との主題をみても,両者にまったくかかわりがなくて,これが同じ精神科医の学会であるのかと驚くくらいである。もちろん,専門学会であるので,それぞれの専門の最も重要で基本的かつ今日的問題が語られるのは当然であろうが,それにしても,向精神薬療法をどうとらえるかは精神科医には避けて通れない課題であるし,多くは原因不明の精神障害に陥った人たちを薬で治療するさいの,その人との関係がいかがなものかは無視してよい問題ではなかろう。
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