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精神医学がその発祥の時から,疾病分類学Nosologyであったことは,特にフランス精神医学史をひもとけば,どなたにも納得のいくことであろう。なにも精神医学に限らない,医学は事実の集積の上に成り立つので,分類がきわめて重要である。つまりいろいろな病態を科学的に取り扱う際には,常に病態を分類して(Classification),それに適切な命名をすること(術語体系Nomenclature)が必要となる。
そもそも,「分類学」なるものは,博物学の中に誕生し,近代以前にはその代表者は洋の東西を問わず本草学であった。そして,西洋の博物学は大航海時代から目に見えて発達し,その中から全世界にわたる植物,動物,人種,人間文化,気象現象,大洋などなどの博物学がどんどんと成長していった。近代以後には,西欧ではLinnaeusが「生物分類学の祖」といわれるようになった。彼の主著は“Species Plantarum”(1753)であるが,その植物分類は生殖器官,すなわち花の形態をクライテリオンとしている。Linnaeusの分類体系の特色は各植物に(1)属名,(2)種名(1と2を組み合わせて二名法の学名ができた),(3)文献・標本・図版の引用,(4)産地,を与えたことである。そうすることで,彼に続く分類学の著作に必要な,分類の条件を明らかにした。その二名法の反映が精神医学では,例えば早発痴呆Dementia praecoxといった命名法にも現れている。しかしLinnaeusの提出した植物分類の大綱は,あまりにも機械的な「規格分類」に偏っていて,極端な人為分類とされ,一時は蘭・独で広く,英・米でも一部の学者に支持されたが,結局は100年足らずの寿命であった。Linnaeusの分類に変わって用いられたのは「系譜(系統)分類」(進化論を背景に持った自然分類)である。
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