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■新しい医事法の捉え方
筆者は本誌66巻6号(2007年6月号)において,『「医療と法」をめぐる新たな状況と課題』と題し,新しい医事法の考え方を示した1).この前稿においては,通常医療,周産期医療,終末期医療の観点から医事紛争の問題点を分析したが,これらは主として裁判における紛争処理の観点からの記述であり,そこでの検討は民事法による解決に限られていた.しかし,周産期医療や終末期医療の検討から明らかなように,人の生存中はもちろんのこと,出生・死亡に関しては様々な民事法以外の問題が生じてくる.しかもその外延には出生や死亡についての法的理解における違いがあり,「人」か「物」の2つの法概念しか持たない現行の法体系には,医療を取り巻く法の理解において限界のあることを指摘した.このため,「物から人」「人から物」への過程において生じる様々な問題点の解明には,民事法のみならず,公法(憲法・行政法,刑法)や社会法との相互の関連性の理解が重要となる.
今日の医療を取り巻く法律問題の解決は,民法,刑法,行政法,社会法といった個々の法的専門領域に限定されない.医療問題の解決は個々の法的専門領域の枠を超えており,医学・医療,福祉,経済,哲学・倫理等の周辺の専門領域と密接に関連し合っている.そのため,①法相互間の学際的研究,②法と他の専門各領域間の学際的研究が避けて通れない.個々の法的解決策の提示は,必然的に処罰,責任,規制等といった各種の制裁を伴うだけでなく,現代における科学技術の発展と評価,医療・福祉の現状,国家財政,国民の生命観や死生観等といった多様な要素の相互理解の中にある.したがって,各法律間における学際的研究に止まらず,現実の医学・医療へフィードバックすることを可能にする他の専門領域との学際的研究でなければならない.このような核となる医事法を,ドイツのエーザー(A.Eser)は「統合的医事法(Integratives Medizinrecht)」と呼んでいる.
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