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I.はじめに
ここ20数年のあいだに,精神分裂病における眼球運動の研究は著しい発展を遂げた。その主なものとして,第一に,島薗ら43)による慢性分裂病者の閉瞼時眼球運動の研究があげられる。この研究は,慢性分裂病者では安静閉瞼時に小振幅の急速眼球運動が顕著に出現することを示してきた。次に,守屋ら35)は分裂病者の視覚認知が著しく拙劣なことを,アイマークレコーダーを用いて客観的に観察した。すなわち,横S文字のような簡単な図形をみる際に,分裂病者は注視点の移動が極めて少なく,また図形の認知も悪いというものである。第三に,Holzmanら12)による滑動性追跡眼球運動Smooth pursuit eye movements(SPEM)の障害に関する研究がある。彼らは,分裂病者が振子のようなゆっくり動く対象を滑らかに追跡できず,断続的な眼球運動を示すことを多くの症例で明らかにした。これらの所見は,特に慢性分裂病者において恒常的であり,その後の追試で十分に確認されてきている。
眼球運動は,注意や認知の状態と密接に関わると同時に,脳の機能状態を敏感に反映する指標でもある。いわば,心と脳の接点ということもできよう。したがって,近年における眼球運動を指標とする研究のめざましい発展は,分裂病の精神病理と脳機能の接点に関する著しい関心によるものと考えられる。しかしながら,眼球運動が心と脳の接点であるということは,分裂病の眼球運動所見の解釈を困難にしていることも事実である。これは,眼球運動に限らず,精神生理学的研究に付随する本質的な問題であろう。したがって今のところ,これらの所見を心理学的側面と脳機能の両側面から注意深くみていくことが必要である。
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