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はじめに
うつ病は少なくとも全人口の5〜6%の発症率があり,生涯発症率は15%に達すると推計されている。しかし,多種のうつ病はあるものの,全うつ病患者の70%は薬物療法によって治療可能とされており,薬物抵抗性の難治うつ病も電撃療法により,その多くは治療可能とされている。うつ病の成因はなお明らかではないが,死後脳およびPETによる研究から,中枢セロトニンおよびノルアドレナリン神経伝達の低下があると考えられている。またドーパミン系についても変化が報告されているが,その活性が低下しているのか否かについてはまだ一致した意見はない。
一方,抗うつ薬としては結核病棟においてイソニアジドが抗うつ効果を持つとの洞察力の優れた観察から,モノアミン代謝酵素阻害薬が使用され,ほぼ同時期(1958年)に三環系抗うつ薬(イミプラミン)が開発された。以来,多種の三環系抗うつ薬が開発され,うつ病治療に貢献したが,これらはいずれも抗コリン作用を持つことから,煩わしい副作用(口渇,便秘,眼調節障害,偽痴呆など)と共に危険性の高い心毒性がある。臨床薬理学的な検証から,抗うつ作用はセロトニンの神経終末への再取り込み抑制効果にあることが明らかにされたこと,さらにイミプラミンやアミトリプチリンなど大部分の三環系抗うつ薬は体内では比較的速やかにノルアドレナリンの再取り込みを抑制する物質(それぞれデシプラミンおよびノリトリプチリンなど)に代謝されてしまうことから,選択的にセロトニンの再取り込みを抑制する薬物(SSRI)が開発されるに至った。
一方,うつ病の成因にノルアドレナリン神経伝達の低下も関与すると考えられることから,セロトニンとノルアドレナリンの両者の再取り込みを抑制する薬物(SNRI)が開発された。本稿では,現在目本で使用されているSSRIのフルボキサミン(デフロメール®,ルボック®)とパロキセチン(ハキシル®)ならびにSNRIのミルナシプラン(トレドミン®)(図)について薬理学的側面から述べてみたい。
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