「精神医学」への手紙
塩酸ドネペジルと目覚め現象—牧らの論文に対して
堀 宏治
1
,
冨永 格
1
,
織田 辰郎
1
,
女屋 光基
1
,
寺元 弘
1
1国立下総療養所
pp.221
発行日 2002年2月15日
Published Date 2002/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405902593
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牧らの論文1)を興味深く拝見した。本症例は塩酸ドネペジル投与により,日常生活動作,意欲の低下が改善され,それが逆に性欲を亢進し,不適切動作が増加し,かえって,介護者の負担を増加させたものと判断された。筆者らも,塩酸ドネペジル投与で物盗られ妄想と現実検討能力の改善により,現実を直視し,うつ状態を呈した痴呆の症例を経験した2)。
risperidone以来,非定型抗精神病薬の登場により,awakenings(目覚め現象)が知られるようになった3,4)。本現象は非定型抗精神病薬の投与により,精神症状の改善から現実検討能力が高まり,それが時に諸刃の剣となり,自殺企図などかえって好ましくない症状を呈するものである3,4)。精神症状の改善した患者は新しい精神状態を経験するとともに新しい現実に直面・挑戦するという局面も有していると言われているが,この新しい挑戦は自己のアイデンティティー,人間関係,生きるための目的を根本的に評価し直すことでもある3)。このため,精神症状の改善した患者に対しては支持的精神療法的接近が必要とされる4)。牧らの症例や筆者らの症例は目覚め現象に類似しており,塩酸ドネペジルにより目覚め現象が存在すること,痴呆の患者に対しても支持的精神療法的接近の必要であること,それが介護負担を軽減することを考察した。
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