「精神医学」への手紙
早期アルツハイマー型痴呆の「困惑状態」に対する考察―山本と原田の論文に関して
堀 宏治
1
,
冨永 格
2
,
織田 辰郎
1,2
,
女屋 光基
2
,
寺元 弘
2
1国立下総療養所臨床研究部
2国立下総療養所精神科
pp.212-213
発行日 2003年2月15日
Published Date 2003/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100648
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山本と原田の論文1)を興味深く拝読させていただいた。アルツハイマー型痴呆(AD)の早期の段階で,特に,物忘れだけが前景に立ち,他の認知機能の低下がはっきりしない時でも,山本と原田が指摘しているように,それまで特に問題なく生活していた患者が,より多くの知的能力,判断力を必要とする状況において,急に「困惑状態」に陥ることが時としてある。あるいはこれは,ADの早期の段階というよりmild cognitive impairment (MCI)の段階といったほうが正しいのかもしれない。
現在,ADの前駆段階としてMCIが注目されているが,MCIの段階で抗痴呆薬ドネペジルを投与すべきか否かについては議論が多い。DeKoskyら2)はMCI脳において,アセチルコリン(Ach)伝達系にどのような変化がみられるのか,正常対照群,軽度AD群と比較して詳細な検討を行った。その結果,彼らはMCI群の海馬では対照群,軽度AD群との比較で有意にコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)活性が増加しており,また,上前頭回皮質ではMCI群と軽度AD群において対照群に比して,ChAT活性は有意に高値を呈したと報告している。彼らは海馬や前頭葉皮質でみられたChAT活性の上昇は,AD病変に対して反応性にAch伝達系がアップレギュレートした結果と考え,AD脳でAch作動系の障害が出現するのはある程度ADが進行した段階であると考察している2,3)。
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