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はじめに
頭部外傷などの器質的疾患や,意識障害を伴う内科疾患,精神神経疾患などの原因がなく,慢性の日中の過剰な眠気(excessive daytime sleepiness;EDS)を呈する一群を過眠症という。不眠症が身近なものであるのに比べ,過眠症という病態はあまり知られていない。眠気は,注意・判断力の低下,倦怠感,意欲低下をもたらし,職場での評価の低下,学業成績の低下から社会的不適応状態に結びつく大きな障害となりうる。しかし周の人々だけでなく,過度の眠気に苦しむ人々自身も,過眠症状を「なまけ癖」「だらしない性格」「やる気の問題」と受け止めてしまいやすく,医療機関を訪れることは少ないのが現状である。
眠気は多くの場合,夜間睡眠量が少ないことや睡眠が分断され良質の睡眠がとれないといった睡眠障害の代償として起こる。不眠症や睡眠不足と表裏をなす眠気で,広義の過眠症に入る。代表的な夜間睡眠の障害として,睡眠時無呼吸症候群がある。睡眠中に数秒程度の短い覚醒(脳波上でα波が出現することで確認できる)が何回も生じると,本人は十分に覚醒しないため自覚できないが,睡眠が分断され日中の眠気を生じるというものである。夜間睡眠の障害(睡眠不足)は“睡眠のつけ”となることが知られる。コーヒーを飲んだり顔を洗ったりすれば居眠りをある程度予防できるが,“睡眠のつけ”は大きくなり,かえって眠気が強まり事故につながる危険が生じる。良質な夜間睡眠をとることが大切である。
一方,夜間睡眠のよしあしとは直接関連せずに日中の過剰な眠気を生じる狭義の過眠症が存在する。これらの過眠症は中枢神経系の機能障害が基礎に想定されているが,原因は不明である。本稿では代表的過眠症であり,疾患単位としてよくまとまっているナルコレプシーを中心に狭義の過眠症の症状と病態生理,最近の研究の進展を概説する。
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