- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに:自己評価尺度の利点と欠点
産業メンタルヘルス業務では自己評価尺度を使用する機会が多い。産業医は精神症状のスクリーニングに自己評価式ツールを用いる。これらは有用なツールではあるが,利点と欠点が存在する。
利点としては以下の3点が挙げられる。
1) 簡便性:自己評価尺度は多数の従業員に対して簡単に実施でき,大規模なサンプルを対象にするのに適している。
2) 経済的:従業員の健康状態を評価するためのツールとしては低コストである。
3) 定量化:自己評価尺度は,従業員のメンタルヘルス状態を数値で評価するため,傾向や優先順位を定量的に把握するのに役立つ。
一方,欠点としては以下の3点が挙げられる。
1) 主観性:自己評価尺度は,従業員の主観的な評価に基づいているため,個人間での評価の違いや偏りが生じる可能性がある。
2)虚偽報告:従業員は自己評価尺度の結果に影響を与えることを恐れ,真実を隠すかもしれない。特にその結果が社内の人事評価などに関わる場合には,誠実な回答を得ることが難しい。
3) 言語や文化背景:自己評価尺度は,言語的な理解や文化的な違いに影響を受ける。
つまり,産業メンタルヘルスに関する自己評価尺度は,迅速で経済的な情報収集方法として有用であるが,その限界や確証バイアスに注意する必要がある。われわれは確証バイアスを持ちやすい。そのため,その質問票に記載されていることの一部でも自分に思い当たれば,肯定的回答をしてしまう。したがって,メンタルヘルス分野での自己評価尺度は偽陽性となりやすいので注意が必要である。企業が総合的なメンタルヘルス対策を実施するにあたり,自己評価尺度を他のデータソースと組み合わせ,より包括的な評価を行うことが理想である。
Copyright © 2024, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.