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ASDを評価する尺度の位置づけ
自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)は神経発達症の1つである。すべてのASDに共通する特徴は,①持続する相互的な社会的コミュニケーションや対人的相互反応の障害,および,②限定された反復的な行動,興味,または活動の様式である。ASDは,注意欠如多動症や発達性協調運動症,知的発達症といった他の神経発達症と併存するケースが多いことや,症状も多様で重症度もさまざまであることから,臨床家の間で診断が一致しないケースもしばしば経験される。原因については,長らく誤解されてきた歴史がある。1940年代,自閉症は不適切な子育てが原因とされ,自閉症の子を持つ母親たちに「冷蔵庫マザー」という言葉が用いられたこともあり,長年にわたり,養育者たちは自責の念に悩まされた歴史がある。現在これは否定されている。研究者および医療関係者は,蓄積された研究結果から,ASDは先天的な脳機能の障害であり,育て方が原因ではないことを常識としている。
ASDに関して,種々のスクリーニング検査や症状評価のための評価尺度が,それぞれの目的に応じて開発されてきた。ASD児の早期支援は,コミュニケーションの発達や,適応の向上などの効果が示されており,さらには成人後の自立度にも影響すると考えられる。早期支援へつなぐために,行政などが実施する集団健診などの機会を利用して,一般集団へのスクリーニングを行う試みが世界中で実施され,たくさんのスクリーニング尺度が開発されてきた。たとえば,乳幼児期自閉症チェックリスト修正版(M-CHAT)は,大勢の幼児を短時間(5分程度)で効率的に評価することが可能である。最初のスクリーニングにおいて,偽陽性率が高かったとしても,追跡が必要な被検者をある程度絞り込む場合に有効である。
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