Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
総合病院精神科において,せん妄はコンサルテーション・リエゾンで最も多く診察依頼を受ける病態であるが,その対応には難渋することも多い。
せん妄はさまざまな要因で引き起こされるが,医薬品誘発性せん妄については,せん妄誘発リスクの高い薬剤を特定し,その切り替えや減量・中止を図ることで予防できる可能性がある。
医薬品誘発性せん妄の原因となる代表的な薬剤には,オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン受容体作動薬(以下,BZ)などがある。この中で,BZは睡眠薬・抗不安薬として総合病院でも頻用されており,トリアゾラム,ゾルピデム,エチゾラム,ブロチゾラムなどのBZに影響を受けたせん妄の発生には,多くの医療スタッフが悩まされている。
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(日本老年医学会)においては,不眠症の治療薬として,ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬ともに「特に慎重な投与を要する薬物リスト」に挙げられ,認知機能低下,転倒・骨折などのリスクから,高齢者の使用に警鐘が鳴らされるようになった5)。特に入院場面においては,全身状態が不安定な高齢患者にとって薬剤の副作用は顕在化しやすく,BZ使用によるせん妄や転倒・骨折などのリスクはさらに高まる。
一方,BZ以外の不眠症治療薬については,鎮静系抗うつ薬(ミアンセリン・トラゾドン)のせん妄抑制作用は広く知られていたが,新規睡眠薬(ラメルテオン,スボレキサント)についても抑制系に働くことが,八田らにより相次いで報告された2〜4)。せん妄発生頻度の高い高齢入院患者において,不眠症治療薬のせん妄誘発系の薬剤から抑制系への薬剤への切り替えは,予防につながる可能性がある。
特にせん妄が発生しやすい高齢者は,睡眠薬の使用頻度が高いこともあり,安全性を考慮した睡眠薬の選択が重要となる。
筆者は,前任地の静岡がんセンターにおいて,「せん妄リスクを考慮した高齢入院患者への不眠対応」を基本方針として,病棟スタッフと協働し,BZ睡眠薬からの切り替えを主体としたせん妄予防活動に取り組んだ。特に激しいせん妄が頻発している病棟をモデル病棟とし,せん妄カンファレンスを定期開催して予防のための工夫を重ね,その内容を「睡眠マネジメント」(表1)として取りまとめた。これは,がんに罹患した高齢入院患者を対象とし,主に術後せん妄の予防を念頭に置いた対応であるが,化学療法など他の治療,さらには緩和医療領域にも適応している。
「睡眠マネジメント」は,当初はBZ誘発性せん妄の予防を目指していたが,途中からBZの離脱せん妄への対応も課題となり,最終的には“誘発性”と“離脱”の両者を意識した予防対応となった。
本稿での筆者の役割は,総合病院におけるせん妄予防の実践活動を紹介することである。「睡眠マネジメント」の取りまとめの経過を示しながら,院内にどのように予防活動を普及させてきたのか,約3年間の活動を段階を追って報告する。なお,本稿は「せん妄予防のコツ—静岡がんセンターの実践」6)で報告した内容をまとめたものである。
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.