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はじめに
統合失調症は古今東西を問わず,人口の約1%が罹患する精神疾患である。統合失調症に罹患すると,程度の差はあれ,幻覚・妄想に代表される陽性症状や自発性の低下・感情鈍麻といった陰性症状に苦しめられる。また,認知機能も低下することが明らかとなっている。しかし,なぜそれらの症状が引き起こされるのかはまだ明らかにはなっていない。
19世紀後半から20世紀初頭にかけて,Kraepelin,Bleuler,Schneiderらにより統合失調症は疾患単位として確立されてきたが,当初から,統合失調症には臨床的な進行に対応する進行性の脳病態があると仮定されていた。しかし,半世紀以上にわたる死後脳研究では,統合失調症患者の脳には神経変性所見がみつからず,1972年には「統合失調症は神経病理学者にとって墓場である」14)との言葉が残されるに至った。
しかし,この状況は数年後にコンピュータ断層撮影(computed tomography;CT)の登場によって大きく塗り替えられることとなった。1976年にJohnstoneらは,慢性期の統合失調症患者では,脳室が拡大していることを報告した6)。その後,1984年にSmithらによって統合失調症患者に対する磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging;MRI)の報告がなされた。この論文では統合失調症患者が9名,健常者は5名と被験者が限られており,かつ,定量を試みた項目では統合失調症と健常者では有意差は認められなかった。しかし,MRIはCTよりも脳構造を細かく知ることができることがはっきりと示され,統合失調症の画像研究が相次いで報告されることとなった。その結果,統合失調症では脳室の拡大が認められること,扁桃,海馬,海馬傍回を含む側頭葉内側部が萎縮すること,上側頭回が萎縮することなどが次々と明らかとなった。これらの詳細はShentonらによるレビュー16)が詳しい。彼女らは1988年から2000年にかけて発表された193編の統合失調症のMRI画像研究を網羅してレビューしており,統合失調症の画像研究の黎明期をよく知ることができる。
これらの研究で用いられている手法は,主として「関心領域法」であった。関心領域法は,研究者が関心を持っている脳領域に焦点をあて,その脳領域に対して手作業で関心領域を設定し,その容積を算出するものである。関心領域法は今でも重要な研究手法のひとつであるが,関心領域以外の情報は見過ごされてしまうことになる。そのような中,探索的に脳構造の異常を検出しようとする試みがなされた。Voxel-based morphometry(ボクセル単位形態計測;VBM)は探索的手法のひとつであり,全脳を対象に,局所で脳容積が異常となっている領域を検出しようとする。そして,世界でVBMが最初に応用された疾患は統合失調症である。Wrightらは,15人の統合失調症患者に対して,陽性症状と上側頭回の灰白質容積および脳梁の白質容積に相関があることを報告している17)。
この報告以降,統合失調症に対するVBM研究が多く行われてきた。2017年7月現在,PubMedで“Schizophrenia voxel-based morphometry”で検索すると416件の論文がヒットする。そのような中,これらの論文に対するメタ解析も行われてきており,統合失調症の形態異常のエビデンスが日に日に蓄積してきている。そして,VBMを用いた統合失調症の診断の可能性も検討されている。そこで本稿では,現在明らかになっている統合失調症と脳構造の関連について,そして診断補助ツールの可能性について概説する。
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