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はじめに―統合失調症患者の脳にみられる形態学的異常はどの程度のものか
統合失調症患者の磁気共鳴画像(MRI)所見として,側脳室や第三脳室の拡大,前大脳縦裂,シルビウス裂や脳溝の開大,海馬,上側頭回,前頭葉皮質の体積減少などが認められることはよく知られている。しかしながら,これらの脳形態の変化は,患者を群として健常者と比較したときに,統計学的に検出される軽微なものである。DavidsonとHeinrichs3)によるメタ解析では,MRIによる定量的評価のうち,統合失調症患者と健常者のオーバーラップがもっとも少ない領域は両側の海馬と左の上側頭回であり,それらの部位の%オーバーラップは61.8%と報告されている。
当教室において,MRIの関心領域法による体積測定により,統合失調症患者62例を健常対照者63名と比較したときの,19の脳領域(皮質領域については灰白質)における体積変化のeffect sizeを表に示す。それぞれの領域の計測法に関しては,既報の論文10,12~17)を参照されたい。左の上側頭回におけるeffect sizeが-1.45と,その体積減少が最大であり,右の同部位が-1.03,左の扁桃体が-0.91と続いている。これらのeffect sizeから推定される統合失調症患者と健常者の%オーバーラップは,それぞれ約30%,45%,48%となる。以上から,特定の脳部位の計測値だけでは,健常者とオーバーラップする部分が多く,診断的意義は乏しいことがわかる。さらに注意すべきことは,左上側頭回の-1.45という値にしても,数十枚から成る1mm厚の冠状段スライスを,厳密に条件統制したうえで1枚ずつ計測したものを集計した結果から求められるものであり,同等の変化を,たとえばMRI写真の視察によって確認することは不可能であろう。これは統合失調症患者のMRI写真を見るときの印象に一致するものと思われる。
脳形態MRIは,侵襲性が低く,安静を保つだけで被検者に特段の努力を要求せず,再現性の高い豊富な客観的情報を提供し,比較的短時間で施行が可能であることが利点である。以下に,MRIのこれらの利点を生かし,解析法を工夫することにより,統合失調症の客観的補助診断法に応用する試みについて,当教室におけるこれまでの成果を中心に紹介する。
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