Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
ネット依存の治療において,家族は治療の導入,維持,予後において欠くことのできない重要なキーパーソンである。最初に依存問題に気付き医療機関などへ連絡し,依存者本人へ受診を働きかける人の多くは家族である。また家族は治療者に対し,依存の形成過程,心身状態,生活状況,人間関係を含む学校や職場などの社会的状況,家族機能の状況など治療に必要な多くの情報を提供できる。そして依存者の家族として治療の動機付けと介入の機会をより多く有し,新たな生活再建とその維持に必要なものを提供できる。その一方でネット依存家族のキーパーソンは傷つき放置されている可能性を考慮しなければならない。
ネット依存の多くは10代から20代の青少年である。家族は,就学,就労の重要性を本人以上に強く意識しており,進級,進学,就労に関わる時期が近づくごとに将来への不安や焦りを抱えている。懸命に解決を図ろうとあらゆる手段を講じその都度,喜んだり,悲しんだりを繰り返している。対応によっては怒鳴られたり,脅されたり,無視されたり,ものを壊されたり,暴力を受けたりしている。慢性的な疲労感に加え「私の躾や対応が悪かった」などの過度な自責感,無力感,孤立感を募らせている。昼夜逆転傾向の本人が気になり,夜間熟睡することができていない家族も少なくない。そのような状態では本人に対応して良好な家族間のコミュニケーションを維持したり,冷静に建設的な話し合いを持つことはできない。また本人への対応方法は家族間で統一した同じ対応が望ましいが,それが困難な場合が多い。たとえば,母親は依存問題を重視しながらも父親は軽視していたり,単身赴任であったり,父親自身がコミュニケーションを苦手としていたり,母子家庭であったりする場合がある。本人や父親に自閉症スペクトラム傾向がないかなどの家族機能全体に問題がないか留意していく必要がある。家族自身が心身の健康を回復し,手ごたえを感じる対応ができるように必要な知識を学び,適切な評価や支援を第三者より連続的に受けることによって,家族は次第に機会を逃さず,適切な対応を積み重ねていくことができる。それが依存者本人を含めた家族全体の回復に繋がる可能性は大きい。今回ネット依存家族への対応について久里浜医療センター(以下,当センター)におけるネット依存家族への取り組みの中から述べていく。
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.