書評
—臺 弘 著—誰が風を見たか 増補版—ある精神科医の生涯
加藤 進昌
1
1昭和大学発達障害医療研究所
pp.1068
発行日 2015年12月15日
Published Date 2015/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205082
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本書は,臺弘先生(1913-2014)が満80歳に刊行された自伝の復刻版に,先生自身のその後の発表論文の中から2編,そして私生活の一面を物語る「大正の子供の物語」と,ご長女(坂本史子氏)による「松沢幼ものがたり」を収載した増補版である。内容の詳細については,増補部分にある齋藤治氏のいわば「巻頭文」が簡にして要を得ている。80年の歩みを記録された初版本は,時代を超えて読み継がれる内容を備えていたことはもちろんである。しかし,先生はその後さらに20年を亡くなられる直前まで活躍され,一方で初版本はすでに絶版となって入手不可能となっていた。この増補版によって,初めて臺先生の百年と過去一世紀の精神医学史が結びつき,完成したように思う。
臺先生は2014年4月16日満百歳でその生涯を閉じられた。先生の突然の旅立ちに私たちは全く心の準備ができていなかった。これは百歳という超高齢者の場合には異例なことと言わざるを得ない。ご自宅の近くで営まれた葬儀のあと,急なことで知らせが届かなかった方々のためにも,せめて一周忌をと私は思い,ご長女やお弟子さんらと相談を重ねた。たまたま別件で訪問された星和書店の石澤雄司社長にも,自伝のことをお尋ねした。初版本は活版印刷だったので新たに作らねばならないとのことであったが,増補版刊行を快諾していただいた。では,自伝をあくまでも尊重するとして何を補うか。先生の業績を知悉している人たち,本文にある「ウテナ・スクール」の面々の意見で論文が厳選された。ご遺族の協力で写真も追加することができ,増補版の経緯はご長女の「ものがたり」に掲載されて,本書は一周忌の思いをこめて完成した。
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