動き
「第1回精神科遺伝学国際会議」印象記
南光 進一郎
1
1帝京大学医学部精神医学教室
pp.1231
発行日 1989年11月15日
Published Date 1989/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204809
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1987年2月Egelandらは感情障害と5番染色体短腕末端部の遺伝子との連鎖を認める衝撃的な報告を行った(Nature 325;783,1987)。ひき続いて,88年11月Sherringtonらは分裂病においても11番染色体長腕近位部の遺伝子との連鎖を認める報告を行った(同誌 336;164,1988)。急速に進歩する分子生物学の方法が精神医学においても適応され成功した点で,これらの研究成果は生物学的精神医学研究史上画期的なものであった。
このような時期にあって第1回精神科遺伝学国際会議は,Cambridge大学Churchill Collegeにおいて1989年8月3日から5日までの3日間,T. J. Crow(Northwick Park病院臨床研究センター主任)を会長として行われた。この期間中会場となった講堂はまさに白熱した討論と学問的熱気にみちあふれ,知的興奮のるつぼであったといっても過言ではなかった。会議の参加者は主催者の予想をはるかに上まわる30カ国三百数十名(日本からの参加者は,世界生物学的精神医学会会長福田哲雄教授,産業医大阿部和彦教授,大阪医大堺俊明教授ら10数名)にも達した。その大多数は20代後半から30代にかけての研究者で,精神科遺伝学における世代の交代をまざまざとみせつけられた。演題はポスター(79題)とスピーチ(87題)に分かれていたが,分裂病,感情障害に関連した演題の約3分の2はDNA連鎖研究で占められ,かつての家系研究,双生児研究など,臨床遺伝学的研究はまったくの片隅においやられていた。また連鎖研究との関連で再び細胞遺伝学が脚光をあびつつあるとの印象を受けた。
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