Japanese
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シンポジウム 精神障害者の責任能力
責任能力論と治療観
Criminal Responsibility and Conception of Therapy
中谷 陽二
1
Yoji Nakatani
1
1東京都精神医学総合研究所
1Psychiatric Research Institute of Tokyo
pp.1089-1096
発行日 1989年10月15日
Published Date 1989/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204790
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I.はじめに
久しく模索されていたわが国の精神科医療の改革は,精神保健法の実施を契機に新たな段階に入り,今後それに付随して様々な現実的課題が浮上すると予想される。そのひとつは,法を犯した精神障害者の刑事責任能力の問題であろう。人権保護と開放化のもとで,精神障害者に対してより多くの市民的権利と社会生活の機会が与えられるが,そうした医療の理念に照して,責任能力の基準も再検討を迫られる。そして,これは司法精神鑑定の専門家だけの関心事ではありえない。なぜなら,患者の触法行為に直面して治療者がいかなる態度を選択すべきかという意味において,医師個人の治療観や医師患者関係の根幹が問われることになるからである。このような問題意識は本来,精神科臨床に携わる人すべてに共有されて然るべきものである。
ところが責任能力をめぐる議論の積み重ねは,限られた専門家のあいだを除いて,これまできわめて不十分であった。戦後まもなく内村16)は,精神医学界で責任能力論が等閑視されていることに触れ,「わが国の現状はまことに遺憾」と憂えたが,そのような無関心さは近年いっそう強まっているようにすら感じられる。新しい医療情勢のもとで精神障害にかかわる法的諸問題が重要性を増しているが,そのなかで責任能力論と触法障害者の処遇の検討は非常に立ち遅れているといわざるをえない。
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